2007年10月9日火曜日

カラー印刷

カラー印刷出版技術の進歩はすさまじい。絵巻などの古美術を写真に納めて印刷出版したものは、たいてい一目で見ればおよその出版年代が分かる。それぐらい歴然としたものだ。

一方では、出版の数に比例して、なぜかその魅力が小さくなると感じるのはわたしだけだろうか。絵巻でいえば、一流作品の全点出版が終わり、それも手ごろな値段で個人の手に入るようになってから、作品の部分々々をクローズアップで見せることしかできない、出版のランク付けには用紙の質に頼ってしまうような安易な出版物には、つい敬遠してしまう。

その中で、最近印象に残った一点をここに記しておきたい。出光美術館が2006年に発行した『国宝伴大納言絵巻』である。この一冊の魅力は、一言で言えばプレゼンテーションに工夫を凝らしたことにある。同じくクローズアップの写真を組み入れることで絵巻を紹介するという枠組みの出版でありながら、その写真の撮影と選択は秀逸だ。ふつうならオリジナル作品のイメージを壊すのではないかと危惧する蛍光撮影、料紙の質感を出すような接写、陰影を強調して演出した立体的な出来栄えなど、出版物としての遊びが至るところに見られて、読む人にも絵を見直すきっかけをなにげなく与えている。ページを捲りながら、写真の魅力をあらためて認識させられた。

写真印刷を通じて古典の作品を正確で綺麗に再現し、出版物の形で読者の手に送り届けるという意味では、現代の出版産業はすでに大きな一ページを作り上げたと言える。でも、印刷出版の役割が終わったとは意味しない。カラー出版はこれからもこれまでにまして続けられることだろうし、そうしなければならない。

これまでの出版では、満足できないことはいまだたくさんある。絵巻の作品に因んで一例挙げれば、オリジナル作品に近い閲覧環境の提供がいまだ十分に成されていない。絵巻は、もともと披いては巻戻して見るものだ。ただし巻物という物理的なスタイルは、今日になればさすがに時間的にも空間的にも経済的ではない。だが、それにもかかわらず、書籍の形になった出版物で、一ページの裏表にある絵を記憶の中でしか繋げることができないことはもどかしい。一段の絵を中断しないで通覧する経験はぜひ持ちたい。おまけにページを綴じた谷間はやはり見苦しい。一段ごとに分かれた、折込式の印刷物があれば、どれだけ助かるものか。

新たな姿になって現われてくるカラー印刷の出現を一読者としてせつに願いたい。

印刷用語辞典

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