2007年12月25日火曜日

西洋の風景

絵巻の中では、西洋との出会いがあったのだろうか。近代に入るまで、そのような実例は、知っている範囲では現われなかった。近世に作成された絵巻の作品でも、蘭学やキリストの伝教などとはきわめて離れた文化圏において制作され、楽しまれていた、ということだったのだろうか。

一方では、日本画的な作画と西洋の風景とは、ぜったいに溶け合えないものかと言えば、そう簡単には結論を下せない。下の作品は、その中の一例だと言えよう。小さな写真からはすぐには分からないが、これは実は六曲一隻の屏風の一部だ。描かれたのは、十六世紀後半に起きたスペイン国王フェリペ二世がトルコ艦隊を破ったレパント沖の海戦である。躍動に満ちた人間や馬などは、写真や油絵にみる陰影をもつ構図を見せながら、海に浮かべる戦艦は、例えて言えば、「石山寺縁起」に登場した海の中の白い馬を思わせる。それに加えて、全体の色はなんとも美しい。これを描いた絵師は、どれぐらい西洋の絵画を見、その色彩に心を惹かれたのだろうか、つい想像を逞しくさせてしまう。ちなみに屏風のタイトルは、「レパント戦闘図・世界地図屏風」。十七世紀初めの桃山時代の作品で、香雪美術館の所蔵であり、つい今月半ばまで大阪市立美術館の展示に出品された。

時はまさに2007年のクリスマス。いまやサンタの飾りもキャロルの音楽もすっかり日本の暮らしに溶け込み、一年の中でも、西洋的なものへの憧れが一番端的に形に現われる時期である。テレビを点けたら、ある流行歌手のステージでの絶叫が不意に流れ、その内容とは、なんと「ハッピークリスマス、万歳」。絶句させられた。同じ東洋と西洋との融合といっても、昔には、いたって端正で優雅なものがあった。


香雪美術館

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