2008年3月23日日曜日

チェスタービーティー・ライブラリーより

いまは、アイルランドのダブリンにあるチェスタービーティー・ライブラリーに来ている。国際会議に参加するために、約一週間の滞在となる。貴重書閲覧室、特別展示ホール、そして学会の会議室に出入りする、まさに夢のような時間の続きである。

ライブラリーは、2000年にここダブリン城の一部となる広い庭園に建てられたビルに移ってきた(写真)。展示などはすべて無料で公開され、観光客の訪問も後を絶たない。チェスタービーティーという名をもつコレクションは、2万点以上の書籍、美術品からなり、まさに量・質ともに世に誇る。紀元2世紀に遡る聖書などをはじめとする十の西洋のコレクション、二つのイスラムのコレクション、中国、日本、チベット、南アジアの四つのアジアコレクションに分けられ、日本関係のものの中では、写経、浮世絵、鍔などの古書、古美術品に並んで、約120点に及ぶ絵巻、御伽草子(英語の説明は「Nara Ehon」)が入る。この「奈良絵本」作品群こそ、日本中世の研究において過去四十年多大な注目を集めきたものであり、しかもNHKの特別番組、天皇陛下のご訪問、作品の里帰り展示や修復など、広く紹介され、その都度話題になるものである。一方では、普通の人々の知識にあまり上らないこともたしかで、たとえば観光客のほぼ一人一冊持っているあの観光ガイドブックも、かなりの文字数をこのライブラリーに使っていながらも、絵本などの文字はついに現れていない。

記憶の中では、チェスタービーティーという名前は、学生時代の恩師への思い出、仕事駆け出しころの掛け替えのない出会いなどに繋がる。それらを思い起こしながら、ここ数日、資料調査では数々の名宝、秘宝をじっさいに自分の手で披いて拝見し、学会や懇親会では過去四十年の間にそれぞれの研究に携わってきた研究者本人の思い出や報告を聞き、思いを整理するには数倍の時間が要るような充実で至福な時間を過ごしている。

わたしの発表は今日の午後と予定している。そのテーマは、「御伽草子研究におけるマルチメディアのアプローチ」。ここで数回書いた「音読・義経地獄破り」も発表の一部として報告する。この素晴らしき古典コレクションが、自分のやや一人よがりなアプローチまで受け入れてくれることを内心に祈りつつ。

March Nara Ehon Conference

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