2010年9月25日土曜日

絵師の職場

古代における絵師の仕事風景が知りたい。とりわけ中国の場合、それがどのようなものだったのだろうか。手近なものとして、楽しい一例がある。十六世紀の初頭、明の絵師仇英が描いた「漢宮春暁図」にみられるハイライトの場面である。

100925この巻物は、なにかのストーリを伝えるのではなく、「漢」の名前を模った宮廷の中での華やかな生活様子を、いわば代表場面を集成するという趣向で構成したものである。その中では、読書、盤上ゲーム、刺繍、楽器の習練といった場面に続いて、絵師を招いて肖像を描かせる場面がクローズアップされた。大勢の着飾った女性たちに囲まれて、正装した絵師が襟を正して女主人公に向かった座り、数点のポータブルの道具や絵の具を傍に広げておいて、一心不乱に肖像の作成に取り掛かる。周りに集まった見物の女性たちは、あるいは屏風の後ろから顔を出したりして、驚異のまなざしを絵師の手元に注いでいる。堂上を支配した緊張した雰囲気が見る人にたしかに伝わる。

大きな画像を片手で持ち上げるなど、絵師の姿勢にはかなり不自然なところもあって、この職場の様子には想像、あるいは創意が隠されていたに間違いない。ただ、中国の伝統に照らし合わせて眺めてみれば、聊か不慎重ではあるが、なぜか漢方医者の姿を連想してしまう。あくまでも低姿勢で、注文主の期待に応えようとすることが、仕事の基本になっていたのではなかろうか。

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