2011年1月15日土曜日

哪吒伝説

110115今週の講義は、哪吒伝説である。子供時代の読書記憶を呼び起こしつつ、学生たちとともに古典の原作を読み直し、少なからぬ愉しみを味わえた。

哪吒とは、中国伝統において一つのユニークなアイコンに違いない。明時代の小説に描かれたそれをいま読んでみても、ストーリの展開、エピソード表現のリズム、作者の想像力など、どれを取り上げてみても、初々しくて、魅力が衰えない。その理由の一つには、やや文学研究っぽく言えば、逆転の構図が挙げられよう。三年六ヶ月の妊娠の末に生まれてきた子供を迎える父親の最初の行動は、剣を振るい落とすことだった。しかも真っ二つに割れた肉の塊から赤ちゃんが飛び出す。竜宮とは遥か彼方に存在する巨大な建物なのに、哪吒が腹掛けを海に入れただけで、それが大地震に見舞われたように揺れ動く。強靭無敵な竜は、子供の腕飾りの輪の一撃であっけなく命を落とし、おまけに筋まで抜き取られてしまい、竜王本人でさえ、哪吒に命じられるまま、蛇(!)に姿を変えさせられてしまう。人々の常識を悉く反転させたエピソードの展開は、愉快痛快、極まりない。

哪吒伝説を記す「封神演義」は、同時代の作品の中で、格が劣る。しかも版本でしか伝わらず、ビジュアルものは数枚の挿絵に過ぎない。しかしながら、遠い昔に初めてこれを読んだとき、繰り返し現れた殺伐したエピソードで、目を覆いたくなる気持ちでいたことだけは、妙に覚えている。生々しい文学描写の裏返しだった、ということだろうか。

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