2011年10月2日日曜日

宋の絵巻を読む

二週間あとにささやかな研究発表を予定している。ここ数日、もっぱらその準備に取り掛かっている。今度取り上げるのは、中国の宋の時代に作成された絵巻。一つの小さな研究としては、伝えたい内容がだいぶ前から形になっている。いまはむしろそれをどのように有効に伝えるべきかと、関係資料を読み直し、所定の時間からあふれ出そうなことを削り落としている。

絵巻という表現媒体の中心をなす要素は、つぎの三つだと捉えることが出来よう。すなわち文字と絵の反復、特定のストーリーの存在、それにある程度熟知されたものの再表現、である。以上のような考えが成り立つものならば、これらの要素を完全に具えた作品は、中国にたしかに存在していた。しかも宋の時代のものが数点も伝わり、日本でいえば、あの源氏物語絵より百年以上も古い歴史を持つ。だが、一方では、そのような作品は、どう見ても中国的なものだ。言い換えれば、日本で成長し、愛読された絵巻が持つ数々の表現の工夫や手法は、まったくといいほど見られない。

日本絵巻についての研究は、約30年まえのカラー印刷による出版を受けて大きな展開を見せた。中国の事情に目を転じて見れば、似たような出版のラッシュがまさにここ数年の間にはっきりと見受けられる。もともとそのほとんどは高価なもので、個人読者よりも大学図書館などを対象にしていることが明らかだ。ただ、それでも絵巻研究をまつわる環境が大きく動き出したと実感できる。そのような状況を受けての研究の進展を心待ちにしている。もちろん自分なりの読み方も怠りたくない。

仏教文学会

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