2013年2月23日土曜日

地図と衛星写真、その他

地図の話をもうすこし続ける。先週は三日間、ダウンタウンに通った。しばらく行っていない間に、新しい建物はいくつも現われ、町の景観もどんどん変わっている。思わずカメラを取り出して、何回もシャッターを押した。それだけではなく、戻ったら地図サイトまで覗いてみた。

思えば、いつの間にか地図への期待がどんどん膨らんだ。在来の、線と文字のみによる道路の様子に加えて、衛星写真、航空写真、それにストリートビューという名の通行者視線、こう数えてみても少なくとも四つの階層の情報がスタンダードなものとして重なった。これらにはさらに道路情報、公共交通のスケジュール、さまざまな店の情報などが加えられる。これらの中において、在来の地図にみられた、あの抽象的でいて、道路の交差しか提示しないものは、いつの間にかすっかり相対化されてしまった。その内、「電話」といえば携帯電話を指して、据え付けられた電話なら「固定」電話で呼ばなくてはならないような事情は、地図においても起こってくることだろう。世の中は変わるものだ。

20130223ダウンタウンで見てきた具体例で言えば、新たなランドマークになるタワービルが建ち、それの姿をいくつかの地図サイトで確かめた。アップル地図(携帯利用のみ)の航空写真は一番綺麗で、ビルが完成されて利用する前のものだ。グーグルの衛星写真はまだ骨組みしか出来ていない二三年前のものだが、しかしながらストリートビューでは、都市全体のものが更新されて、タワービルの建設がだいぶ進み、入り口前のモニュメントが半分まで作り上げられた時のものだ。つまりこの町について、メジャーな地図サイトは互いに1年程度の時間差で情報を更新している。こうなれば、普通のユーザとして果たしてなにを期待し、どのようにしてこれを使いこなすべきだろうか。

2013年2月16日土曜日

グーグル古地図

グーグル地図では日本もふくめて古地図まで利用できるようになったという話題は、かなり前から聞いていた。すこしは余裕があって、ようやくそれを覗いてみることが出来た。精細な衛星写真データをベースに、鮮明な建物と青々とした自然、世界遺産やら観光やらの自然や社会生活の情報、そして歴史という時間の年輪まで含まれて、紙媒体の地図という概念を遥かに超えたもので、見ていて実に飽きない。

20130216グーグル古地図は、Chromeなどのブラウザーからはアクセス出来ず、「グーグルアース」をまず入れておかなければならない。頻繁に更新を続けているこのサイズの大きいプログラムは、ずっと敬遠していたのだが、古地図のためならやむをえない。プログラムを起動して、手始めに京都を目指した。他の追加情報と同じく、古地図はレイヤという機能を通じて実現する。「ギャラリー」、「ラムゼイ歴史地図」と順に進み、あとは京都市を一覧できるぐらいにして、ようやく南東の端っこに専用のアイコンを確認できた。それをクリックして、一枚の古地図は京都の衛星画像にすっぽり被せるように現われた。用いられているのは、「新選増補京都大絵図」という、宝永六年(1709年)に刊行されたもので、古地図は、現在の地形にあわせて、記入された文字が問題なく読める程度慎重に調整を加えられ、地図全体の拡大・縮小や移動にスムーズに対応している。賀茂川、桂川、御所、そして東山の古刹群など、地図の上で三百年という時空が快適なぐらいに融合している。

一方では、圧倒的な情報量に比べて、さまざまな方向からの情報の付け出しという仕組みからの自然な結果だろうか、その使い方はあまりにも不親切で難解だ。古地図はレイヤの一つだと分かっていても、簡単にはたどり着かない。地図について二つの階層になる説明が施されているが、それは肝心の使い方に配慮していない。その結果、古地図レイヤを出したのは良かったが、それを除こうと思えば、レイヤを外しても古地図が残されたままで、あれこれと苦労してようやくまったく関係ない「場所」セクションの「保留」タグでそれを実現できたのだった。肝心な地図そのものは、カリフォルニア大学バークレー校図書館に所蔵されているものが用いられ、説明も英語のみである。これだけ魅力ある分野だから、日本の関連機関からの本気な参加を期待して止まない。

グーグルアースで古地図を見よう

2013年2月9日土曜日

春の蛇

暦の上では、今日は辰年の大晦日で、明日からはようやく巳の年が始まる。ただこのような干支の暦を案出した本場の中国では、いまや辰や巳という文字が印刷されたカレンダーなどにのみ現われ、人々の会話や感覚では、遠の昔から「蛇年」との表現が定着したものである。

そこで、蛇年を迎えて、中国の絵に登場した蛇の姿を求めようとしたが、さすがに簡単には歴史ものに辿り着けない。きっと古くから描かれ続けてきたものに違いないと想像はするが、いざ蛇を真正面からテーマに掲げるものを見つけようとしたら、苦労するものだ。そんなところで、つぎの一点が目に飛び込んできた。これを描いたのは、著名な清の画家で、華岩(華嵒)(1682~1756)である。130209三百年にはなるものだろうか。絵には読みやすく、分かりやすい詩が添えられていて、あわせて書き留めておこう。
凹凸石太古、蒙密草尤青
見説含春洞、夜来蛇気腥
ーー人間の足跡などはなく、莽々とした草むらに隠された石穴に春の気配を求めようものなら、そこには夜には活発に走り回る蛇がいるのだ。ーー詩の意味するところはこういうものだろうか。いわゆる文人画の系譜を受け継ぐもので、絵のテーマを蛇に絞っても、自然や季節のことをしっかりと詠み込むことを心がけたものである。

因みにこの絵がささやかな話題を呼んだのは、干支一回り前の2001年に、これがそっくりそのままドミニカで発行された切手の絵柄に用いられたからだ。いわゆる漢語圏の国や地域のシンガポール、香港、モンゴリア、北朝鮮などで蛇の切手を発行してもさほど驚きもないが、それがドミニカだとは意外だった。蛇の切手でさらに興味深い事実を一つ付け加えよう。それより二周り先の1965年に沖縄で発行された切手は、蛇を取り入れたものとして一番古いものだとされている。

蛇年話蛇

2013年2月3日日曜日

「自炊」の対応語

ときどき、違う言語間のすごい対応言葉に出会う。今週もそのような興味深い一例が印象に残った。小さな内輪の研究会に出て、テーマは今時のデジタル資料の使い方だった。発表者の一人は自慢げにユニークなセットを持ち込み、それの由来を丁寧に説明した。それによれば、「Homer Book Scanner」という名前だった。話を聞きながらさっそく同じサイトをクリックしてそれを確かめたが、いささか驚いた。英語の言葉としてどれだけ広く認知されているかということでは議論の余地もあるだろうが、それが指しているのは、まさに日本で盛んに話題になった「自炊」そのものだ。しかも一発で「非破壊的自炊」を実践しているなのだ。

同サイトの中では、これのアプローチを「Homer」と省略して称している。この言葉自体は、「家にいる人」というように取れないこともないが、もともと古代ギリシアの詩人の名前とのこと。なれば、「自炊」と比べれば、このネーミングは遥かにエレガントなのだ。それはともかくとして、手作りの仕事台、セットとなる専用ソフトウェア、汎用のパソコンシステムへの対応、しかもそのソフトがオープンソースでだれでも自由に利用したり、新たな機能を組み入れたりすることが可能になっていることには感心した。ソフトウェアの内容は、写真に撮影したものの自動修正と電子整理であり、言い換えれば書物のデジタル化を裁断しないことを前提として実現しようと工夫したもので、普通の書籍のデジタル化を真剣に考えての取り組みなのだ。

「自炊」あるいは「Homer」の目的は、いうまでもなく書籍そのものを共有しようとするものではない。日本の場合、それはおそらく多くは多量の書籍の保存場所の確保などにあり、ここ英語圏では、少なくとも研究会に話題に出たのは、デジタル化した上の検索、分析だった。ここには、例の著作権関連の議論はたしかに無視できない。しかしながら、デジタル化した資料は、そうでなければ実現不可能な環境を提供していることもたしかだ。そういう意味で、デジタルしたものそれ自体が、一つの新しい知的財産にはなり、研究者同士で共有することが自然と期待される。具体的な例を一つ添えておこう。日文研で公開しているデータベースの一つには、「日本語語彙研究文献」というのがある。対象となるデータは似たようなプロセスをもって収集されたと明らかに思われる。特定のテーマのためのデータリソースとして、関連する分野の研究者にはありがたいものであり、学術研究に有意義なデジタル資料の共有という意味で興味深い実践を見せてくれている。

Homer Book Scanner
日本語語彙研究文献データベース