2017年6月10日土曜日

撮影する歌舞伎

学生たちの語学研修が終盤に入ったら、いつも楽しいハイライトが用意されている。国立劇場における歌舞伎鑑賞教室と名乗演目を観劇するものだ。今年も、劇場を埋め尽くす大勢の中学生、高校生とともに、英語を遠慮なく大きな声で会話するカナダ人の大学生が加わった。語学の能力を明らかに超えるものに直面するのだが、それでも大いに楽しめたと見られる。

舞台上には、興味深い一時があった。最初の三十分ほど、鑑賞への入門ガイドだった。巨大な廻り舞台、様式に則った立ち回り、拍手喝采を得た白頭の舞など、あとからあとから歌舞伎の基本がテンポよく展開された。そこへ、最後の特別サービスとして、観客全員はそれぞれカメラを持ち出すことを勧められた。舞台上でポーズを取りながらその様子を写真に納めて、そして各自のSNSにアップロードするようにと言われた。この演出は、満場の若者に明らかに受けられ、大きな歓声の中、俳優はシャッターとフラッシュに包まれた。まさにレンズを通して味わう感動だった。今時の若者は、その場にいない友人との交流やデジタルによる記憶にスマホのカメラをまるで自分の体のいち部分のように操っている。そのようなかれらに混じり、右の一枚も、自分にとってのよい記録になった。

歌舞伎と言えば、写真や動画によって接する機会はけっして少なくはない。一方では、普通の観客として劇場に入ったら、カメラとはまさに無縁な存在となってしまう。その理由は、いろいろと考えられよう。だが、撮影だって一つの観客と舞台との交流の方法であり、カメラを通しての参加は、たとえ短い一瞬にせよ、確実な喜びとなっている。大いに参考になる試みだと言わなければならない。

歌舞伎十八番の内・毛抜

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